センス・オブ・ワンダーの世界

 ニフティの自然観察フォーラムで私の担当している会議室のタイトルは、私の好きな作家レイチェル・カーソンの本から取りました。科学者の目を持ち、作家としても豊かな表現力を持ったレイチェル・カーソンという作家は私のあこがれです。学生時代に読んだ「沈黙の世界」の冒頭の「明日のための寓話」は衝撃的でした。

「アメリカの奥深く分け入ったところに、ある町があった。生命あるものはみな、自然と一つだった。<中略> ところが、あるときどういう呪いをうけたわけか、
暗い影があたりにしのびよった。<中略> 自然は、沈黙した。うす気味悪い。鳥たちは、どこへ行ってしまったのか。みんな不思議に思い、不吉な予感におびえた。裏庭の餌箱は、からっぽだった。ああ鳥がいた、と思っても、死にかけていた。ぶるぶるからだをふるわせ、飛ぶこともできなかった。春が来たが、沈黙の春だった。」


 カーソンの著書は5冊しかありませんから日本語版はすべて持っていますが、中でも写真と文章の調和した「センス・オブ・ワンダー」は一番のお気に入りで
す。センス・オブ・ワンダー(神秘さや不思議さに目を見はる感性)は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、わたしたちが自然という力の源泉から遠ざ
かること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になると言っています。私も小さい頃から生き物が好きでしたが、日常的には忙しくて職場と家を往復するだけの日々ですが、センス・オブ・ワンダーを生涯持ちつづけたいものです。

 実は佑学社版「センス・オブ・ワンダー」を企画した方から、レイチェル・カーソンの英語は詩情豊かで深淵です。ぜひ原語でも読んでみて下さい、というメ
ッセージをもらったことがあります。再版されるようなので、ぜひ読んでみたいと思います。もともとはメイン州の林や海辺・空などの写真を用いた大判の書籍
のようです。

 このカーソンの世界にひかれて、アメリカのメイン州を2年前に訪れたことがあります。もともとアメリカ東部は身内が住んでいて何回か訪れたことがあるの
で、四季の変化が豊かなニューイングランドの自然は親しみがありますが、針葉樹と落葉広葉樹の林は地衣類に覆われ、湖上には夏羽のアビ、ごつごつした岩の海岸、海にはロブスター篭のカラフルな浮きなどなど、美しい大自然でした。いつか一番美しい紅葉の季節に行ってみたいです。退職してからでないと無理だけど。

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