キプリング童話集 動物と世界のはじまりの物語 ラドヤード・キプリング作 ハンス・フィッシャー絵 小宮由訳 アノニマ・スタジオ編集 KTC中央出版
10 どうしてネコはひとりででかけるの?
キプリングが子どもたちが眠る前に語って聞かせた物語。挿絵は子どもの頃大好きだったこねこのピッチの挿絵と同じハンス・フィッシャー、コウモリはほんのちょっとしかでてこないけど、フィッシャーの線画のコウモリが気に入っています。
野生だったイヌ、ウマ、ウシが、洞くつにすむ人間のそばで働く代わりに居場所やおいしい食べ物をもらうようになっていく中、ネコはその様子をうかがいながらも「おろかだ」と森でひとりで自由に生きる道を選ぶ。人間の女は「わたしがおまえを一言でもほめるようなことがあたら、洞くつに自由に出入りしてもいい、二度ほめたら火のそばにすわってもいい、三度ほめたら一日に三回あたたかい牛乳をやる。これからさきも、ずっとずっと」」というが、ネコは森の奥で長い間身をかくす。人間の洞くつの天井にぶらさがって話をきいていたコウモリだけは、ときどきネコのもとへとんでいって、人間たちのようすをつたえていた。
そして人間には赤ちゃんが生まれた。赤ちゃんはやわらかいもので、こちょこちょされるのがすきで、あたたかいものをだいてねるのもすきだし、あそびあいてになってやるととてもよろこびます。」とコウモリから聞いたネコは「いよいよ、ときがきたようだ」と洞くつのちかくまでいく。
朝、男がイヌをつれ、ウマにのって狩りに出かけたあと、赤ちゃんがなくので、思うように料理が出来ない女のところにいって、赤ちゃんをわらわせて女に自分をほめさせ、洞くつに出入りする権利を手に入れる。
さらに女に糸車のおもちゃをつくらせて追いかける自分をみせて赤ちゃんをわらわせる方法を教え、うとうとしたあかちゃんにだかれ、女からたき火のそばにすわる権利をえた。
そして洞くつを走り抜けたネズミをつかまえて食べ、女に三度めに自分をほめさせて、あたたかい牛乳を一日三回もらうことになった。
一方帰ってきた男は、「おれとは、なにもやくそくをしとらんし、これから生まれてくる男たちとも、やくそくをしとらんぞ」「おまえが洞くつにいるときは、ずっとずっと、ネズミをつかまえつづけろ。そうしなかったら、ここにあるもの(石斧、薪、鉈)を、おまえになげつけてやる。」と。さらにイヌは自分が洞くつにいるときに赤ちゃんにやさしくしていなかったら、おまえにとびかかって、かみついてやる」というので、洞くつにいるときはネズミをつかまえ赤ちゃんにやさしくすることになったが、「だが、わたしは、ネコであるのだから、どこへでも、ひとりでいくし、どんなところでも、自由に出入りしますよ」という最後の一言が男とイヌを怒らせたので、いまでも、ネコがきらいな男の人は、ネコを見かけるとときどきものをなげつけ、ふつうのイヌは、ネコを木までおいかける。
ネコはやくそくをまもって、家にいるあいだは、ネズミがいたらつかまえるし、赤ちゃんにはやさしくしているけれど、ちゃんとやくそくをはたしたあとは、月がのぼる夜などに、どこへでも、ひとりで出かけ、どんなところでも、自由に出入りするのです。