1 チャーハンとそば
 旅行会社の沖縄ツア−のパンフレットを見ると、「7島めぐり4日間」というのがあった。3泊4日で石垣島、西表島、由布島、竹富島、黒島、与那国島、波照間島とかけめぐるツア−である。われわれの感覚では、それぞれの島で最低3泊はしないと行った気にならないのだが、このツアーでは、たとえば波照間島では島につくとマイクロバスにのってアカハチという伝説上の英雄の記念碑とシムスゲ−という古い下り井戸とコ−ト盛という遠見台を見学して日本最南端の碑の前で記念撮影して、さあ次の島へいきましょう、てなもんである。駆け足でめぐるというか、何歩島に足をつけたか数えられるくらいではないか。石垣島からオプションで半日の波照間島ツア−もあったが、8時40分石垣港発の高速船は9時半ころに波照間に到着し、午後1時に帰りの高速船でみんな帰ってしまうのだ。とりたてて観光名所があるわけでもなく、海水浴のシ−ズンでもないから、動植物や離島の暮らしに興味のない人にとって、ここで宿泊しても暇をもてあますだけなのだろう。
 だが島では1月3日に成人式があることひとつとっても離島という環境のもつ特性がわかって興味深いではないか。前に多良間島にお正月休みに滞在したときは1月4日が成人式であったが、高等学校のないこういう小さい島では、中学を卒業した子供達はほとんどがもっと大きい島か本土へと出てしまうので、20歳になったからといって1月15日にわざわざ島に帰ってくるのはむずかしく、お正月休み中に行うのである。
 さて話は戻って1995年12月31日の昼頃、日本の南のはて波照間島にわれわれはついた。お昼は島唯一の食堂である、われわれの宿泊場所でもある民宿星空荘で食べる。「チャ−ハンとそば(八重山そば)がありますけれど・・」というので二人で一つずつ頼んだ。ただし、4泊5日の滞在中、食堂の昼のメニュ−はいつもこの二つだけであった。
 昼食後、レンタサイクルで島の探検をする。オオコウモリは夜、果実を食べにきて、口の中でそのジュースをしぼって飲んだのち食べかすを落とすので、昼間明るいうちに捜しておけばいいのだが、大晦日のせいかどこもきれいに道路が掃除されている。困ったことである。それでも2・3ヶ所来そうな場所のあたりをつける。
 集落のすぐそばに大きな遊水池があり、キンクロハジロ、ホシハジロ、ハシビロガモ、スズガモなどのカモが十数羽休んでいる。カイツブリやミミカイツブリなどもいる。白いアジサシが二羽飛んでいるので図鑑を片手にだいぶ悩んだが、頭の模様などからハジロクロハラアジサシという珍鳥のようだ。
 島全体はサトウキビの畑が広がっていて、チョウゲンボウという小型のタカが飛んでいく。畑のそばのやたらと明るく、解放的な雰囲気のお墓の脇では、セッカというスズメより小柄な小鳥がススキにとまっている。このセッカは上昇するときには「ヒッヒッヒッ」という声を出して鳴き、上空から降りてくるときには「チャッチャッチャッ」とさえずるものだが、どういうわけだかこいつはススキにとまったまま両方の鳴き声を出していた。昇ったつもり、降りたつもり、だったのだろうか。さんざん空をさがしてしまった。
 途中で小さなしゃれた手作りのお土産やさん「モンパの木」に立ち寄る。夜光貝の貝細工と藍染め、オリジナルTシャツなどがならんでいる。
 夕食後もあちこちオオコウモリを捜して出歩き、結局宿のすぐ近くにいいポイントがあることがわかった。ここのオオコウモリは、今まで訪れたさまざまな島よりも人を恐れず、カメラのストロボにも全然動じない。近くで十分その姿や行動を堪能させてもらい、写真もずいぶん撮れた。交尾らしき行動も見られた。セレベスコノハズクのコホッコホッという声がしていた。
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