民宿の夜

 夕方6時ちょっと前に宿の主人が英語の話せるお客を連れてきて"Boss go to dinner six o'clock"と伝える。ちょっと変な英語だけどたしかこのように言った。6時に玄関に出てみるとメンバーは10人以上いて、車に乗り込むところだった。連れて行かれたのは、ほんの数十メートル先の食堂。雨だからとはいえ、車で行く距離ではないと思う。

 まずは「すり身のフライ」、「タコとセロリの炒め物」同じテーブルについた女性が「TAKO」と教えてくれる。「イガイの蒸した物」「小エビのフライマヨネーズがけ」「鶏のぶつ切りトウガラシニンジンの煮物」これは鶏の足がそっくりそのままの形で入っていたが、誰も食べなかった。「カレイの揚げあんかけ」は大きいのが一匹と小さいのが4−5匹、「牛の胃の炒め物」「魚のスープ」「ほうれん草の炒め物」「スイカ」と次から次へとたくさん出てきた。

 台湾ではお店に入っても水やお茶は出てこない。みなアップルサイダーを飲みながら食べるのだが、どう考えてもせっかくの食事の味を損ねる。あれだけ「食」に対して貪欲なのは尊敬に値するのだが、食事の時に甘い物を飲むことだけはどうしても理解できない。もっとも日本でも子供にコーラやジュースを飲ませながら食事をしている姿をよく見る。
 それにちゃんとした構えのお店なのに、ここも屋台のようにペラペラのピンクのプラスティックの入れ物をお茶碗にしていた。日本では環境ホルモンが問題になって、プラスティックの入れ物に暖かい物を入れるのは避けるところもあると思うが、こちらではまだ問題になっていないのだろうか。それに、これだけの量のプラスチックゴミは、どこに行ってしまうのだろう。後で気がついたのだが、この日の夕食代を払っていない。誰かが払ってくれてしまったのか、それとも宿代に含まれていたのだろうか。これが、この台湾旅行のなかでいちばん豪勢な食事だった。

 再び車で数十メートル先の宿に戻る。夜の7時半頃、トントンと部屋のドアがたたかれた。また片言英語で"Do you claim?"「???」"Do you need some help?""Do you need any service?"「???」"We go out"片言英語が話せる人が集まって口々に何かを説明しようとして大騒ぎになったが、どうやら今から出かけるけど何かご用はありますかと言いたかったのではないかと思う。感謝してお断りする。
 夜8時頃から、玄関で宴会が始まる。ドアの内側の狭いロビーでは、大部屋に雑魚寝で泊まっている10人くらいの若いグループが、ドアの外のテーブルにはその他のグループが占めている。
 外に小さな台所があり、ご主人が魚のスープや刺身、魚肉の炒め物、魚の内臓の炒め物を次々とつくってくれる。一部の人は台湾ビールを飲んでいるが、ソフトドリンクを飲む人がほとんどである。そういえば台湾ではお酒を飲む人をあまり見なかった。さきほどの夕食も、アップルサイダーだったし。

 ご主人はドアの中に首を突っ込んで、ロビーの若者グループから英語の話せる若い女性二人を呼び出す。恥ずかしそうに出てきた二人に通訳をさせて、前に大阪の方から来た日本人グループを泊めたことがあるなどと片言の雑談をする。狐蝠(タイワンオオコウモリ)は90年ほど前まではどこにでもいたが、今はいないとのことである。又二人の女性のうちの一人は台北に住んでいて、われわれがこれから台北に行くと言う話をすると、台北は10年くらい前まではアメリカの真似をしていたが、現在は日本の真似をしているから、キティちゃんとか日本の物をたくさん見かけるだろうという。そういえば彼女の着ているTシャツはアラレちゃんの絵であった。また友人がお茶の水女子大にいっているということで、どんな大学なのか聞かれた。

 

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