アメリカンサモアのコウモリ

 太平洋の中の火山島であるから、当然ながら在来の哺乳類はコウモリだけである。アメリカンサモアには、3種のコウモリがいる。

 小コウモリはサシオコウモリだけ。Department of marine and wildlife resourcesの女性研究者RUTHさんによれば、ハリケーンで生息地の洞窟が浸水して現在の生息状況は不明であるとのこと。滞在中は毎晩空を眺めたが、小コウモリは見かけなかったし、バットディテクターにも反応はなかった。

 サモアオオコウモリPteropus samoensisは、サモア諸島とフィジー諸島だけに生息するため、ここツツイラ島ではたくさんの姿が見られるが、絶滅の危惧がある。トンガオオコウモリPteropus tonganusはパプア・ニューギニアのカルカル島からサモア諸島、クック諸島まで南太平洋のかなり広範囲に渡って生息している。こういった国々の記念切手によく使われている。 ここではオオコウモリを食べる話は聞かなかったが、1980年代にはかなりの数がグアムに食用として輸出されており、生息数の低下を招いている。つまり遠くマリアナのチャモロ人のお腹にはいってしまったわけだ。また島々を襲うハリケーンもオオコウモリに被害を与えるようだ。

トンガオオコウモリ←トンガオオコウモリ
  同じ地域に2種のオオコウモリが生息しているというのを見るのは初めてである。大きさは、RUTHさんのところで標本を並べた写真を見たところではトンガオオコウモリの方が若干大きいように見えた。確認してみようと思ったのだけど、他の話の途中で、集中してないとすぐ英会話から落ちこぼれるので、結局聞きそびれてしまったが。野外ではこの違いはわからない。どちらも日本のクビワオオコウモリやオガサワラオオコウモリと同じくらいの大きさで翼を広げると1m近くになる。サモアオオコウモリは昼行性である。群馬県立自然史博物館の展示で昼間活動するコウモリという表現があったが、日本やマリアナで見ていても、ねぐらが森の中なので、昼間も飛ぶ姿を見ることが結構あるけれど、基本的にオオコウモリは夜行性だと思う。しかしサモアオオコウモリは真っ昼間に空高く飛ぶ。典型的はサモアオオコウモリは、体は褐色で、前頭部から頭頂が白く顔の毛も明るいが、個体差が大きく全身褐色に見えるものもいる。またこの頭の白は飛んでいるときには向きによってはわかりづらい。翼がトンガオオコウモリより幅広い。
 トンガオオコウモリは基本的に夜行性で、夕暮れにも夜遅くにも飛んでいる。サモアオオコウモリよりも細長い翼を持ち(ただし飛び方によってはよくわからない)褐色の体にくっきりとした黄色い幅広い首輪模様がある。ただし、この首輪模様は前面はないので、下から眺めているとよくわからない。

→夕暮れ時に飛ぶトンガオオコウモリ
 ここのオオコウモリは上昇気流にのって上空高く舞い上がったり、はるか彼方まで一気に滑空する。日本で見ていたときも、オオコウモリは小コウモリより悠然と飛ぶと思ったが、それでも通常ははばたき飛翔をする。ここでははばたかないオオコウモリを見る機会の方が多いかもしれない。アメリカンサモアといえばサマセット・モームの短編「雨」である。来る日も来る日も土砂降りの雨が降る、雨期のアメリカンサモアが舞台となっている。モームが泊まった家は、「雨」の登場人物サディ・トンプソンの名前をつけたレストランとなって残っているが、パゴパゴ湾を隔ててちょうど対岸に通称レインメーカー山がある。標高523mの、険しくそそり立った山で、われわれが行ったのは乾期だったが、この山に雲が懸かりやがてどしゃぶりのスコールがパゴパゴ湾沿いの集落に来るというのを何回も経験した。まさに雨をつくる山である。昼間このレインメーカー山の近くへ行くと、サモアオオコウモリが円を描くように滑空している姿が見られる。またこの山の麓は、なかなかいい雨林が発達していて、自分の頭ほどの大きさの実をくわえたサモアオオコウモリやトンガオオコウモリが飛んでいるの を目にする。種子散布者として働いている真っ最中というわけだ。そして夕暮れ時レインメーカー山のふもとの峠で待っていると、島の北側斜面をねぐらとしているトンガオオコウモリが、次々と峠を越えて南の方へと採餌に通過するのが見られる。トンガオオコウモリは集団でねぐらをつくるので(サモアオオコウモリは単独か小さなコロニー)いっしょに寝ているオオコウモリが一緒に飛び立つのか、通過には波があって、時々連続してたくさんのオオコウモリが通る。パンフレットやBCIの記事やビジターセンターで聞いたときにオオコウモリの飛び方としてsoaringという表現をつかっていたが、まるでグンカンドリやカツオドリである。

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